「舞、どういうこと? な、なんで転校……なんで香坂さんたちには言ったのに、私には教えてくれなかったの!」


 私は立入禁止の屋上に続く階段室に舞を連れ込む。

 誰も屋上には行かないから誰にも邪魔されずに話せる。

 とっさにそう思ったからだ。

 そんな冷静な判断が下せるくせに、私は妙に混乱してしまい、どもる。


「なんでこんな大切なこと、私に黙ってたのよ!」


 自分でも驚くぐらいヒステリックな声が響く。


「そんなのどうでもいいでしょ。痛い、放してよ!」


 帰すまいとつかんだ手を、今は逃がすまいとつかんでいる。

 きつく握ってしまって、放せない。

 力のコントロールが利かない。

 だって、今ここで放したら、舞が私から離れていってしまいそうで……

 逃がすまいと腕をつかむ手から逃れようと、舞が身をよじる。

 私の手をつかんで、引きはがそうとする。

 一度も私と目を合わそうとせず、ただもがく。

 そのしぐさが辛い。

 私なんて、顔も見たくない?

 私なんかに、さわられたくもない?


「舞」


 泣き出しそうな声がした。

 知らない誰かの声みたいなのに、その声は私の唇からもれていた。

 暖房もストーブもない階段室で、吐いた息が白く残る。

 ようやく舞と目が合う。

 泣き出しそうな私を、舞は睨んでいた。

 怒った顔も綺麗だな。

 と、恋に浮かされた愚かな私が思う。

 するりと、舞の腕が冷たい魚のように私の手から抜け出した。



「じゃあ、なんで愛ちゃんは稲葉くんと付き合ってること黙ってたのよ!」