「そんなことよりも、稲葉。おまえあれからどうしたんだよ。篠塚置いて逃げやがって。男としてサイテーだぜ、おまえ」
「うっ」
痛い所をつかれてしまい、言葉に詰まる。
「ちゃんと謝って仲直りしたのかよ。それとも、もしかしておまえ……振られちまったのか!」
「違うっての!」
振られるも何も、俺と篠塚は付き合ってさえいないんだから。
「だから、俺と篠塚はそういうんじゃねぇんだよ。ただのトモダチ。わかる?」
「……マジで?」
「マジで、だ」
そんなに意外なのか、水無瀬は面白いぐらい目をまん丸く見開いている。
「嘘だろ〜!」
「なんでそんな嘘つくんだよ」
「恥ずかしいから」
「なんで恥ずかしいんだよ」
「オレは恥ずかしいから!」
「……水無瀬、付き合ってるやついんのか?」
「オレのことはどうでもいいだろ!」
耳を真っ赤にしているところを見ると、本当に付き合っている相手がいるらしい。
こんなお調子者を好きになる物好きなやつもいるんだな。
ふと、青山にも好きな人がいるということを思い出す。青山は、どんな女の子を好きになったんだろう。
「でもよ、マジで篠塚とオトモダチなだけなのか?」
「だから、そうだっつってんだろ!」
青山に好きな人がいるということと青山に嫌われたかもしれないという絶望的な事実を一緒に思い出してしまい、それを振り切るように水無瀬との会話に意識を集中する。
青山は教室にいない。
机に鞄はあったから、学校には来ているんだろうけど。



