篠塚に会ったら、なんと言って謝ろうかとさんざん迷って、終業式のあの日並みに寝付けない夜を過ごしてしまった。

 薄いクマを目の下につくりながら登校すると、篠塚の様子がおかしかった。

 篠塚はいつも遅刻ギリギリに登校してくるというのに、俺が教室に入ったときにはもうそこにいた。

 まだ来ていないと思っていたのでドキッとするが、すぐに頭の上にクエスチョンマークが浮かんだ。

 篠塚は教室の机の間をうろちょろして、クラスメイトたちに片っ端から声をかけていた。

 妙に落ち着きがなく、焦っているようにも見えた。


「稲葉!」


 そんな篠塚が教室の入り口で突っ立っている俺に気が付いた。

 謝らなきゃ!

 そう思ったが、俺がなにか言うよりも先に、突進してきた篠塚の方が口を開いた。


「舞、見なかった?」


 鬼気迫るものを感じさせる篠塚に引きながら、首をブンブンと横に振る。


「み、見てない」


 まっすぐに俺の目を見てくる篠塚に叱られているかのような錯覚を覚える。


「そう。じゃあいい」


 篠塚はそのまま俺を押しのけ教室の外へ飛び出してしまった。

 遠ざかる背中を見つめながら、謝るタイミングを逃したことに気が付いた俺は、ただただ首を傾げるしか出来なかった。

 三笠舞がどうしたというのだろう。