「あのね、ぼく……きのう見ちゃったんだ」

「なにを」

「サンタクロース」


 まさかの言葉に、ぱちくりと目を瞬かせる。

 昨日、弟二人の枕もとにプレゼントを置いたのはこの俺だ。


「でも、安心して。祐二は寝ちゃってたから、このことぼくしか知らないんだよ」


 浩二は、子供らしい頬で笑う。


「大丈夫。ぼく、口はかたいんだ。だからね、圭兄ちゃんが本当はサンタさんなんだってこと、誰にも言わないからね」


 俺をサンタクロースだと信じる浩二に、思わず吹き出しそうになる。

 親にプレゼントを託されると同時に、俺はサンタクロースの衣装も託された。

 もしも起きてしまった時のことを考えて、らしいのだが、その格好をしていたにも関わらず浩二は俺だと見抜いていたらしい。

 律儀にサンタクロースの衣装を身にまとったというのに、無駄だったらしい。

 けれど、浩二の夢は壊れなかった。

 キラキラと輝く目が、それを物語っている。

 実の兄がサンタクロースの変装をしてプレゼントを置いていったのではなく、実の兄がクリスマスにプレゼントを配るサンタクロースだったという衝撃の事実だ。

 なんて、夢見る少年なんだろう。

 その無邪気さに笑いが込み上げるのと同時に、なぜか涙まで込み上げてきた。


「圭兄ちゃん! どうかしたの? おなか痛い?」


 心配する弟の小さな手が頬に触れ、トイレから帰ってきた弟の叫び声が聞こえてきた。


「あー、浩二が圭兄ちゃん泣かせてるー!」

「違うよー、おなか痛いんだって」

「それも違うって。目にゴミが入っただけだよ。ほら、二人とも家入んぞ。母さん、夕飯作ってる頃だろ。おまえらも、手伝えよな」


 弟二人の背中を押して、


「ただいまー!」


 と玄関をくぐった。