「さわんな!」


 思わず乱暴に腕を振り払ってしまったが、水無瀬の笑みは崩れない。


「つれないねえ。なあ、篠塚」

「えっ……」


 急に水無瀬に話をふられた篠塚は困惑した様子で、なにも言えずに右往左往している。

 遠巻きに水無瀬を眺める剣道部員の視線が痛い。


「水無瀬、からかったらかわいそうだろーが」


 そんな声が投げかけられるが、その声も笑っている。

 俺たち二人をからかう空気に、いたたまれなくなる。


「そうだな、せっかくのデートの邪魔しちゃ悪いよな」

「でっ、デートって、そんなんじゃないよ!」


 篠塚の否定する声を聞く気もない。


「え〜、そうなのぉ? 稲葉、かわいそー。ふられちゃった」

「違うってば!」


 篠塚の声が、どこか遠い。

 みんなの、笑い声がする。

 俺はなにも言えずにただ俯くばかりで、突き刺さる視線を感じていた。

 ひときわ鋭いその視線――


 青山だ。


 そっと窺うように上げた目線の先で、青山が俺を睨んでいた。

 からかいに乗るようなことはせず、けれどそれを止めるでもなく、ただ黙って俺を見ていた。

 睨んでいた。