「圭一、今日も出掛けないのかい?」


 弟たちの説教を終え、寝不足のまま服を着替えてキッチンに下りると、母が皿洗いをしていた。


「え、特に予定はないけど」


 トーストを焼きながら返事をすると、「そう」と妙に残念そうな返事を返される。

 焼きあがったトーストとイチゴジャムの瓶を持ってダイニングテーブルに移動する。

 たっぷりとイチゴジャムをぬってから、トーストに齧り付いた。


「せっかくのクリスマスだっていうのにねぇ。昨日も家族でお祝いだったし」


 さっきの話の続きをする母親に、嫌な予感がした。


「彼女とか、いないの?」


 イチゴの種が奥歯で砂のような音を立てる。


「いないよ」


 砂を嚥下して、返事をする。

 その話題から逸れようと、テーブルに置いてあったリモコンに手を伸ばす。

 リビングの隅においてある、小さなテレビに電源が入った。

 その時ついていたチャンネルはニュース番組のようで――海外で同性同士の結婚が法律で認められるようになったと告げている。

 チャンネルを変えたいと思うのに、リモコンを持った手は動かなくなってしまう。

 海の向こうの世界の話で、この国はそれを認めてはいない。


「圭一がニュースを見るなんて珍しいね」


 婚姻届を出しに来た二人の女性が手を繋いで楽しそうに踊って、肩を抱き合う男性二人が幸せそうな笑顔をカメラに向けていた。


「ねえ、母さん……もしも俺が同性と結婚したらどうする?」


 平静を装って、少しおどけた冗談みたいに聞こえるように聞いてみる。

 母は声を上げて笑った。


「そんな子に育てた覚えはないよ」


 悪意などあるはずがなかった。

 テレビの中で同性同士の結婚を認める法律に反対する行進が映し出されて、教会で式は挙げられないことをアナウンサーが告げる。

 幸せに微笑むその姿だけでどうしていけないんだろう。

 何も言えなくなった俺は、トーストを口に押し込むと無言で席を立った。