「中庭の大掃除って……草むしりなんだ」
コートを羽織ってマフラーを巻き、軍手をはめた私は同じ格好をしたクラスメイトたちと中庭に出ていた。
「普段はゴミと落ち葉拾いぐらいで楽なんだけどね」
隣の香坂さんが溜息をついて、私も白い息を吐く。
長期休暇の前の時間割は、ホームルームと校長の長話を聞く終業式との間に大掃除という物が入っている。
普段の掃除とは違う内容の大掃除は、結構な重労働になることが多い。
「はっくしゅ!」
風が吹いて乱れた髪が鼻先をくすぐり、くしゃみが出てしまった。
「大丈夫?」
「大丈夫……」
気遣ってくれる香坂さんに答えながら、出ていなはなをすする。
「さっさと終わらせて、教室に戻ろう」
みんな中庭に散り散りになって草むしりを始め、私は香坂さんと並んでしゃがみ込む。
中庭と言ってもタイル敷きになっているために草が生える場所は隅のほうにしかない。
そう時間はかからなさそうだった。
「寒いね。雪、降らないかな」
ただ無言で草をむしっているのも退屈なだけで、香坂さんが話しかけてくる。
しゃがみこんでスカートを気にしながら草をむしる香坂さんが、何を期待しているのかは分かりきっていた。
土日と天皇誕生日が重なって例年よりも数日早い終業式。
それがなければ、終業式というのはクリスマスイブにあるもの。
「ホワイトクリスマス?」
「うんっ」
期待するのは、ロマンチック。
「デート?」
「もちろん!」
香坂さんが、色つきリップをぬった唇を微笑ませる。
例の、エレベーターでお弁当を食べている彼氏だ。
「運動部の人だっけ」
「そうだよ。クリスマスも練習あるから、夜にしか会えないんだけど」
そう言う香坂さんの口調に寂しさなんて微塵も感じられなくて、少しでも会えることの喜びばかりが詰まっていた。



