「ねえ、知ってる? このエレベーターのもう一つの秘密」


 私はエレベーターのボタンを押した。

 開閉ではなく、階数を指定する。

 それも数字ではなくアルファベットを。


「屋上?」

「そう。実はこのエレベーターからなら屋上に出られるのよ!」


 屋上は危険だからと立ち入り禁止になっている。

 屋上に続く階段室の扉には鍵がかかっているけれど、エレベーターはその施錠された扉の向こうにある。

 屋上に直接繋がる扉はツマミがあるだけで、鍵がなくても開錠できた。


「香坂さんたちも、天気のいい日は屋上でお弁当食べてるんだって。冬は寒くて夏は暑いし、春秋も風がいからあんまりしないみたいだけど」


 行き先を指示されたエレベーターはすぐに上昇していき、ポーンという音と共にエレベーターの扉が開く。


「行こう!」


 稲葉をうながし、狭いエレベーターから飛び出す。

 屋上の扉を開けると、二月の冷たい風が体当たりをするように肌をなでていく。