「俺たち、性的倒錯者なんだって」


 家にあった古い辞書。
 それに書かれた同性愛者の説明。

 引きつるように口元が引っ張られ、笑ったようになる。


「俺たち異常なんだってさ。病気なんだって。電気ショック与えて、治療とかしなくちゃいけないんだってよ」


 インターネットで調べたそれは、昔々の話だった。

 それでも、辛い。

 今は病気とする医者なんていないことを知りながら、それでも鼻の奥がツンとする。


「ナチスドイツの虐殺とか、死刑になる法律だとか。同性愛者だってだけで、リンチされて殺されたりするんだよ」


 インターネットはロクな歴史を教えてくれない。

 そんな歴史しか、残ってないのか。

 情報は俺を立ち直らせなくさせるだけだと、調べるのをやめた。


「ただ人を好きになっただけなのに、どうして……」


 歴史は自分の行く先を暗示しているようで、目を瞑らなきゃ飛び降りそうだった。

 同性に恋をするような俺は、いなくなった方がマシなのか。

 ふと、頬を何かが伝う。

 さわるとそれが涙だということに気が付いた。


「あ、れ……?」


 意識せずに目から溢れた涙は、ぬぐってもぬぐっても流れ続ける。

 しゃっくりが出た。

 子供のように泣き続ける俺を、篠塚は腕を伸ばして頭をなでてくれた。

 声を上げないことだけが俺の矜持だった。

 でも、本当は大声を上げて泣いてしまいたかった。

 ただ恋をしただけなのに、どうしてこんなに辛いんだろう。

 普通の――異性愛者たちはこんな苦しさなんて知らずにすんでいるのに、どうして俺たちだけこんな苦しい思いをしなくちゃいけないんだろう。

 同性を好きになったっていうだけで、どうして存在を否定されなくちゃいけないんだ。