俺の唇を奪い去った圭一が教室を飛び出すのを見送りつつ、俺は自己嫌悪に陥っていた。


「……マジで?」

「うそぉ」

「稲葉くんってホモだったんだ」

「青山、かわいそー」


 静まり返っていた教室が、我に返ったようにざわめきだす。

 俺が視線を下ろと、篠塚さんの机がある。

 俺が大好きな女の子の机は今、汚い言葉でけがされていた。

 俺は圭一だけじゃない、篠塚さんまで傷つけてしまった。

 俺は自分を思う。

 剣道の試合で優勝争いをするようになってから、女の子に告白されることが増えた。

 自分で言うのはナルシストっぽくて嫌だったけど、正直モテる方なんだと思う。

 ただ目立つから目に留まりやすいだけの話でも、自分に興味を持って好意を持ってくれるのは嬉しかった。

 女の子たちに応援されて、コーチたちに期待されて、後輩に慕われて、たまに先輩から嫌味を言われたり。

 自分は確かにここにいる、ここにいてもいいんだという満足感。

 純粋に剣道は好きだったし、勝利の瞬間はなにものにも代えられない充足感があった。

 期待に報いるのも見返してやるのもいい。

 でも、女の子たちに応えられないのは心苦しかった。