「ええー!! 嘘っ、いつ? いつの間に!?」

「ついさっき」


 真っ赤になった稲葉は私の目を見れずに答える。


「お、思わず……襲ってしまいました」


 なぜか急に丁寧語になった稲葉が可愛くて、思わず吹き出してしまった。


「あははっ! もう〜、私が大変なときになにしてくれちゃってんのよ。せめて、私がいるときにしてよね!」

「なんでオマエの前で……」

「あ〜あ、私も舞にしちゃえばよかったかな。あの時、稲葉が邪魔さえしなかったら」

「悪かったって。でも、しなくて正解だったよ、絶対。あー、俺、明日からどんな顔して青山に会えばいいんだ」


 本当に途方にくれた様子で肩を落とす稲葉。

 私は思わずその頭をなでなでしてしまった。


「…………」


 気持ちよさそうに、されるがままになる。


「稲葉」


 私の呼びかけに、稲葉が応える。

 真剣な眼差しが私を捕らえ、稲葉の手が私の頬にふれた。



 そして、私は目を閉じる――――