in theクローゼット

 ガチャガチャとドアノブが回されるが、内側から鍵をかけられた扉は動かない。

 息をすることさえはばかられるような静寂に響くドアノブの音が止み、人影が離れる。

 私は絶望的な気持ちになり、私を押さえつける三人は胸をなで下ろした。

 けれど、


「テメェら、ここを開けやがれ!」


 扉が外から蹴られ、激しい音を立てる。


「や、ヤバイよぉ……どうしよう」

「ど、どうするって」

「逃げようよぉ」

「逃げるって、どうすんのよ。窓だって開かないし」


 私を押さえたままオロオロする三人は、怒鳴りながら扉を蹴り続ける稲葉に怯えきっていた。


「そこに居んのは分かってんだ!」


 稲葉は蹴飛ばすだけでは飽き足らず、体当たりまでしているようだった。


「ひっ!」


 三人がかすれた悲鳴を上げ、扉の磨りガラスが綺麗な音を立てて砕けた。

 割れたガラスの隙間から、稲葉の拳が突き出ている。

 手は割れたガラスから内側へと侵入して、ドアノブをまさぐり鍵を開けた。

 腕が引っ込み、ゆっくりと扉が外から開かれる。扉の向こうには、やっぱり稲葉が立っていた。

 ――稲葉の怒った顔、はじめて見た。

 三人の先輩に押さえつけられながら、私は微笑んでいた。

 よかった。

 稲葉は私に怒ってなんかいなかったんだ。

 だから、こうして助けにきてくれる。

 嬉しくて、涙が出そうだった。