「稲葉ぁー!」


 私はここにいるよ、と叫ぶ。


「ちょっと……!」


 慌てた先輩が私の口を塞ぐが、私は噛みついてやる。


「稲葉ぁ!」


 怯んだ手が離れた隙に、再び叫ぶ。


「黙れ!」


 頭をタイルの上に押さえつけられ、両手を口で塞がれる。


「んんー!!」


 口を押さえられながらも、めちゃくちゃに暴れる。

 手足をバタつかせ、その手が相手の顔に、その足が相手の体に、めちゃくちゃに打つかっても構わない。


「大人しくしなさいよ……」


 バケツを置いたもう二人が私の体を押さえつける。


「んー!」


 二人がかりで押さえつけられて、さすがに身動きが取れなくなる。

 それでも、口を塞ぐ手の下から叫ぶ。


 稲葉!!


 騒ぐ私を押さえつけて、三人は息を凝らし私を探しに来た稲葉が去るのを待つ。

 静かになったトイレに、廊下を歩く稲葉の足音が聞こえてくる。

 足音が近づき、施錠された扉の摩りガラスに、人影が映る。


「…………!!」


 なんとか声を上げようとするが、強く押さえられて呼吸さえままならない。