「好きなんだよ!」


 青山が考えなしで篠塚のことを喋ったんだって知っても、青山が好きだった。

 思わずぶん殴っちゃうぐらい頭にきて、ムカつくっていうのに、それでも嫌いになりきれない。

 いっそ嫌いになってしまいたかったのに。


「俺だって、青山が好きなんだよ!」


 篠塚の机を痛ましそうに撫でる指先が、罵詈雑言を映す瞳の悲しさが、この事態を想像できなかった無知と無垢さが、憎らしいほどに愛おしかった。


「男の俺が、男のオマエを、好きなんだよ!」


 丸い目が俺を捕らえる。青山が真っ直ぐに俺を見ている。


「本当は、あのチョコレート……俺からなんだよ!」


 青山の目に俺が映っているのに、遠い。

 呆然とした眼差しは現実を受け止め切れていないようだった。

 せつなくて涙が出そうになる。

 静まり返った教室で、誰もが息をこらしていた。

 俺だけがただ胸の高鳴りを感じ、息を荒げていた。

 届かない。

 青山に、俺の声が届かない。

 気持ちが届かない。

 まるで悪い冗談かなにかのようにしか、俺の決死の告白は響いていなかった。


「好きなんだよ。俺は青山が好きなんだよ。冗談なんかじゃねえ、本気で……好きなんだよ、青山ぁ!」


 喉がヒリリと痛んだ。

 堪えきれず流れた涙を制服の袖でぬぐう。

 伝わらない声が虚しくて、伝わらない思いが悔しくて、だから、俺は一歩を踏み出した。

 青山の胸倉をつかみ、強く引き寄せる。



 そして――――



 噛みつくようにキスをした。