「もしかして……付き合ってたの?」

「ううん。引っ越すって知って、告白したけどフラれちゃった」


 まだ痛む失恋の傷口を隠すように、私は笑う。


「そっか……でも、まだ好きなんだね」


 青山は困ったような顔で、微笑む私を見つめ返す。


「じゃあ、仕方ないか。でも……」


 青山は何かを言いかけて、首を横に振った。


「やっぱりいいや。ごめん」

「私の方こそ、ごめんね」


 青山が何を言いかけたのか、気にならないと言えば嘘になる。

 でももう、なにも聞きたくなかった。


「これ、受け取ってあげて」


 廊下に転がったままになった稲葉のチョコレートを拾い上げる。

 稲葉が不器用ながらに頑張って作ったチョコレートと、稲葉が選んだピンクの包装。

 稲葉の気持ち。


「うん。……その子に、ありがとうって伝えといて」

「わかった」


 青山がそれを受け取った時、微かに指先が触れた。

 互いに、それには気付かないフリをする。


 私は罪悪感でいっぱいだった。