心臓がバクバクする。見つかりそうになったせいじゃない。

 青山が、稲葉のチョコレートを受け取ったから。


 やった、やった、やったぁ……!


 声に出せない嬉しさを、心の中で絶叫する。

 そして、突然アルミ戸が開かれた。


「篠塚……!」


 その声は、稲葉の物だった。


「えへへへへ」


 私は青山だけでなく、稲葉にまで見つかってしまった。


 笑ってごまかせるとは思わなかったけれど、稲葉にまで見つかってしまっては笑うしかなかった。


「ご、ごめんね! でも、どうだっ」

「悪い。今……俺に話しかけんな」


 立ち上がって稲葉に伸ばした手が、無惨にも振り払われる。

 強く払われた手が、ジンと痛んだ。

 覗き見していたことを怒られるとは思った。

 でも、これは怒ってるんじゃない。


 拒絶、だ。


「稲、葉……?」


 突然のことに思考する停止。


「どうしたの? ねえ……!」


 再び手を伸ばす。

 でも、稲葉は私を無視して背を向けた。


「篠塚さん。チョコレート、ありがとう」


 稲葉を追いかけようとした私の腕がつかまれる。


「青山……」


 私の手をつかんだのは、稲葉のチョコレートを持った青山だった。

 稲葉の足音が、どんどん遠ざかって行った。


 いったい、なにが起きてるの?