「よっ、色男! どうだった」


 教室に戻ると、待ち構えていたように水無瀬が冷やかしにかかってくる。


「残念、チョコじゃ無かったよ」


 表情を取り繕い、両手をひらひら振って手ぶらであることをアピールする。


「つまんねーの。やっぱり、今年もキングオブチョコレートは青山か」

「なんだよ、そのキングオブチョコレートって……」


 水無瀬の言葉に苦笑する青山は、机の上にこぼれ落ちんばかりのチョコレートを積み上げていた。


「スゲッ……」


 去年よりも増えている気がする。

 色とりどりのラッピングが施されたチョコレートの数々。

 いかにも手作りっぽい形崩れした蝶々結びや、一寸の隙もない有名ブランドの包装まで見えている。

 贈り物はチョコレートだけに留まらないらしく、部活に使う手ぬぐいや、気合の入った手編みのマフラーまで混ざっていた。


「青山。一個貰うな〜」


 呆気にとられていると、山積みのチョコレートに腹を空かせた水無瀬の魔の手が伸びる。


「いいわけないだろ。くれた子に失礼だ」


 パシリと水無瀬の手が叩かれた。

 授業が始まる前でこれだけたくさんのチョコレートを貰っているんだ。

 昼休みや放課後になったら、もっともっと増えてしまうだろう。

 それを全部、自分一人で食べきるつもりなんだろうか。

 俺は甘いものが好きな方だと思うけど、さすがにこの量はげんなりする。

 でも、青山ならきっと食べるんだろう。

 この山のようなチョコレートを女の子たちの気持ちごと、食べてしまうんだろう。