「香坂さんが逢引き用に教えてくれたの。香坂さんって知ってる?」

「クラスメイトなんだから、当たり前だろ」

「それもそうだね。この学校って男女交際禁止でしょ? 香坂さんはよく彼氏とここでお弁当食べてるんだって。エレベーターの中でお昼ご飯なんて、すっごくおかしいのに」


 笑い話をしていたはずなのに、唇が震えてきてしまった。


「男女交際禁止って、女同士とか男同士なら付き合ってもいいのかな?」


 そういう意味じゃないことは分かりきっている。

 でも、校則を作った人間はそんなこと想定していない。

 だから、男女交際禁止。

 私たちは無視されている。

 シカトされて、存在を否定される。


「泣くなよ……」

「泣いてないって」


 生徒手帳の校則を見るたびに苦しかった。

 その思いをようやく吐き出せたのが、少し嬉しかった。


「なんで、稲葉が青山を好きって分かったのか、っていう話だったよね」

「うん……」


 好き、という言葉に少し動揺したようで稲葉は恥ずかしそうに俯いた。

 私は思い出した春の出来事を稲葉に言う。

 ようやく腑に落ちた、稲葉の表情のわけ。


「ずっと、頭のどこかで引っかかってたんだと思う。それが、さっきの稲葉の様子見て分かったの。あんな変な反応してたのは、青山が好きだからなんだって」


 好きな子を聞かれて、驚いたように青山を見つめるあの熱っぽい目。


「たったそれだけで?」

「うん」


 半年以上前の、たったそれだけの出来事で私は分かってしまった。


「でも、気付いたのは私だけだと思う」


 だって、他のみんなは稲葉が青山を好きだなんて、男の子が男の子が好きになるなんて、思ってもみないんだから。

 勘のいい子ってのはいる。

 ちょっとしたことで誰が誰を好きかわかってしまう子。

 でも、それは女の子が男の子を、男の子が女の子をの場合のみ。

 女の子が女の子を、男の子が男の子をっていう場合は、気付かない。

 私たちの存在は無視されている。