「もういいのか?」
私はうずくまったままの舞を残して、稲葉のもとへ行く。
もう涙はとまった。
だから、きっと大丈夫。
例え友情でも、私を好きと告白してくれた舞の言葉がある。
「うん……」
稲葉と並んで、ゆっくりと歩き出す。
ずいぶんと長いこと舞と話していたらしい。
雪もちらつき始めた寒空の下でずっと待っていてくれた稲葉の顔は真っ赤だ。
鼻先や耳が痛そうで、時折はなをすすっている。
「稲葉、ありがとう。おかげで、いろいろ吹っ切れそうだよ」
「そっか……よかったな」
稲葉がいなかったら、こんな気持で舞と別れることなんてできなかっただろう。
稲葉が私をここまで連れてきてくれた。
「本当に、ありがとう」
自転車を押す稲葉の手に手を重ねると、少し驚いた様子だったけれど振り払われはしなかった。
「なんか、綿ぼこりみてえ」
顔を逸らして空を見上げた稲葉が、情緒の欠片もないことを口にする。
私が思った綿毛と、稲葉が思った綿ぼこり。
同じ雪を綿になぞらえても、大きな違いだ。
「な、なに笑ってんだよ!」
思わず吹き出してしまった私を、稲葉が真っ赤になって睨んでくる。
私はますます可笑しくなって、声を上げて笑う。
稲葉が私の友達で、本当によかった。