短編集『秋が降る』

「会いたい人がいるんでしょう?」

その言葉にハッとする。

「・・・はい」

「名前はなんていうの?」
穏やかな顔で外を眺めながらカナさんは尋ねた。

「俊秀・・・長岡俊秀さんです」

「ハルの恋人なのね?」
クスッと笑ったカナさんが、激しく咳こんだ。
体を二つ折りにして苦しんでいる。

「カ、カナさん!」

「大丈夫、大声出さないで」
手を広げて私を落ち着かせる。

タンのまじったような咳は、カナさんの体調の悪さを表しているよう。

「部屋に戻った方が・・・」