短編集『秋が降る』

「そう、あそこ見てみて」
指さした場所には、赤いランプとボタンが。
「あれを押せば、非常ベルが鳴り響く。そうすると、非常口のドアが自動で開くしくみになっているのよ。避難できるように、ね」

「・・・」

だまって見ている私にカナさんが言う。
「でも、これは危険。よほど早く走らないと追いつかれてしまうもの」

「カナさんは逃げないんですか?」
そう尋ねた。

最近カナさんの顔色は、日に日に悪くなっているように思えたから。

「私は無理。そんな体力ないもの。でも、ハルは逃げて」

「無理です。私ひとりでなんてとても」