短編集『秋が降る』

「夜」
カナさんが言葉を放つ。

「夜?」

「夜勤の時間帯は、見回りが1時間に1回くるだけ。その間に逃げるしかない」

「カナさん?」

彼女の目は真剣だった。

その勢いに気圧されたように私は言葉を止める。

「窓はすべてカギが厳重にかけられているから無理。と、すると残る方法はふたつ。カギを奪ってエレベーターから逃げること」

「・・・もうひとつは?」

「非常災害ベルを鳴らすこと」

「ベル?」