短編集『秋が降る』

食事が終わると、すぐに部屋に引き返す人が大半。

その中でもテーブルに残っている人は、そのほとんどが自分の意志で動けない人ばかりだった。

「あの人ね」

カナさんがあごで指したところにいるのは、ぼんやりと宙を見ている男性だった。

「はじめはしっかりしゃべることも動くこともできたの。でも、ある時脱走しようとしているのが見つかったらしくてね・・・。それ以来、薬を強くされたのよ。そしたら、あんなふうになったの」

男性はずっと同じ場所を見たまま動かない。
口元からはだらしなくよだれが流れている。

「名前はなんていうのですか?」
あんなふうになっても、人間だ。

せめて名前を知りたいと思った。