短編集『秋が降る』

なんで忘れていたんだろう。

急ブレーキの音。
飛ぶ人影。

「そう。事故を見たんだよ。それで怖くなって、拓斗に会いたくなったの」

そう言うと、拓斗は目を開いた。

「事故を見たのか?」

「うん。急に飛び出した人がいてね、すぐ近くで車に跳ねられたんだよ。びっくりしたし怖かった」
そう言い終わるかどうか。
私は拓斗に抱きしめられた。

「・・・拓斗?」

「そうか・・・そうか。怖かったのか・・・。かわいそうに」
涙声。

また体温が下がり、私の口から白い息が宙に逃げる。

冬でもないのに、なんでこんな寒いの?