短編集『秋が降る』

永遠とも思えるほどの長い沈黙のあと、拓斗が私を見た。
その目には悲しみがあふれていた。

こんな表情、見たことないよ・・・。

寒気が体を駆けあがり、私を震えさせた。

「彩花は…」
そう言いかけて、また拓斗が口をつむんだ。

「・・・何? どうしたの?」
不安が口を開かせた。

「いや・・・。あのさ、昨日部屋に来る前にさ…」

なぜか分からないけれど、その言葉にめまいのようなものを覚えた。

「昨日・・・?」

「そう。来る時さ、何かなかったか?」

「えっと・・・」
強がっているわけではないけれど、何でもないようなふりで私は宙を見上げた。
「昨日はさ、バイト遅くなってね。それで・・・、あっ!」