短編集『秋が降る』

「ちょ、痛いってば!」
両手で胸を押して離れた私は、拓斗の頬にこぼれた涙を見た。

・・・やっぱり泣いていたんだ。

思ってもみない展開に、驚くというよりショックを受けている私は、何も言えずに拓斗の涙を見ているしかできなかった。

「う・・・」
もう拓斗はそれを隠そうともせず、うつむいて唇をかみしめている。

どんどん自分の体温が低くなっているのが分かった。
それと同時に、体が軽い感覚。

あまりの出来事に体がおかしい。

「拓斗・・・?」

何か言ってほしくてそう言うが、拓斗は何も言ってくれない。

明るくなる空の下、私たちの時間だけが止まっているよう。