短編集『秋が降る』

「ねぇ、どうしたの?」
なんだか胸が苦しくなって私はそう聞いた。

さっきまで見えにくかった町の景色も、白みだした空にその輪郭を浮き上がらせている。

「・・・何が?」

「何がじゃないよ。いったいどうしたのさ」
私は拓斗から体を離して言った。

その顔をじっと見る。

「別に、何でもないよ」
そう言って拓斗は視線をそらせた。

「うそ。怖いんですけど? 何かあるならちゃんと言って」

「だから、何でも…」
言いかけた拓斗が言葉を切る。

その目が潤んでいるように見えたのは気のせい?
それを隠そうとしたのか、再び抱き寄せられた。

強い力でギュッと拓斗の胸に押し付けられる