短編集『秋が降る』

「違うもん。絶対他の女ができたんだって、私、私・・・」
急にお腹のあたりが熱くなって、涙がこみあげてきた。

それは、安心したからだろう。

「バカ」
そう拓斗が言った次の瞬間には、私は抱きしめられていた。

こういうの、はじめてです。

なんだか展開が、よくわかりません。

抱きしめられたまま、すぐ近くで拓斗の声が聞こえる。
「彩花と別れるなんてありえないよ。こんな好きなのに、わかんないかな」

普通ならうれしすぎる言葉。
だけど、私はマイナス思考。

「・・・なんかあやしい」
思ったことが言葉になる。

「あやしくねぇよ。安心してろ」
そう言うと、さらに抱きしめる。