短編集『秋が降る』

なんだかなぁ。
こういう状況になると、いかに拓斗を好きなのかが身に染みる。
だって、めっちゃ悲しいもん。
こういう感覚、知らなかったなぁ。

「ごめんごめん」
拓斗が戻って来て言った。

「大丈夫なの?」
気弱な私は、冷たく言うことができない。

「うん。大丈夫」
そう言うと、拓斗は固いままの表情で、口角をあげてみせた。

笑っているつもりなんだろう。

わかりやすすぎて、安いドラマみたい。

すぐに鳴るチャイムの音。
拓斗がギクッとした顔をした。

げ、修羅場?
新しい彼女が乗り込んで来るとか?
そういうのカンベンなんだけどー。