短編集『秋が降る』

拓斗さん、あなた浮気してますね?

なんて、言ったらどうなるんだろう?

どうしようもなく不安が押し寄せてくる。

思えば『好き』っていう気持ちだけで、突進するイノシシみたいに、私は拓斗の気持ちとか考えてなかったな。
今さら後悔しても遅いけど。

「彩花」
拓斗が私を見る。

「ん?」

「聞きたいことがあるんだけどさ」
そう、拓斗が言った時に、軽快なメロディーが拓斗のポケットから鳴り響いた。
「あ、ごめん」

急いで立ち上がった拓斗が、小走りで玄関に行くと、サンダルを履くのももどかしく外に出て行ってしまう。