勝手に百人一首

どこか切なげな声で言われ、レイモンドは静かに首を横に振った。






「彼女は恋人なんかじゃないよ。

親の決めた婚約で、そもそも二人きりで会ったことさえ一度もない。


ここに来る前に、断りの書状を作って父の書斎に置いてきたよ」






「…………」






「俺は、エレティナしか愛せない。


それが分かったから………」







レイモンドはエレティナの手に頬を寄せ、






「俺が愛するのは、君だけだ」






と囁いた。





エレティナの頬を涙が伝う。





何度流したか知れない悲しみの涙ではなく、長年望んでいた愛をやっと得た歓喜の涙だった。







「………レイモンド。


私も、あなたしか愛せない………」