勝手に百人一首

「まぁ、いつの間にそんな口説き文句を覚えたのかしら?」






エレティナがわざと怒ったような口ぶりをすると、レイモンドは彼女の手をとり、その甲に口づけた。






「やっと自分に正直になれたんだよ」






レイモンドが目を上げる。





真剣な面持ちの中に浮かぶ熱を帯びた瞳に気づき、エレティナの胸がどきりと跳ねた。






「………レイモンド」






「今はもう、天井の隙間から差し込むのは陽射しじゃない。


隠れ忍ぶ恋人たちを密かに照らし出す月明かりだ。



………俺たちは大人になった」






「ええ………」







エレティナは頷いてから、はたと顔を上げる。







「レイモンド、でもあなたには、恋人が……婚約者がいるじゃない」