「先生、これ」


 美月姫の声で圭介ははっとして、先ほどの福山城見学の回想をやめ、目の前の美月姫に視線を移した。


 美月姫は浜辺から圭介の元に裸足で駆け寄り、綺麗な貝殻を手のひらの上に置いて圭介に見せた。


 「珍しいな。こんな整った形の」


 「でしょ?」


 にっこり笑い、美月姫は再び波打ち際に駆け戻った。


 「先生も来ません?」


 美月姫は海水を圭介に浴びせるようにして、誘う。


 「いや俺は、ここで見ている」


 「太陽もだいぶ傾きましたね。水平線に近づいてきました」


 夕刻。


 空を数羽のカモメが舞っていた。


 海水浴シーズンではないので、人通りも少ない浜辺。


 絶え間ない波音だけが辺りに響き渡っている。


 「……寒い」


 夕刻、風が出てきた。


 昼間の灼熱を奪い去るかのように。


 「ほら、これを着るんだ」


 浜辺で波と戯れる際に脱ぎ捨てた、薄手のカーディガンを美月姫に手渡した。


 裸足の足元も、水温が下がり始めた海の水が冷たそう。


 「サンダルも、そこにあるぞ」


 ノースリーブのワンピースでは寒かったようで、美月姫はカーディガンを羽織った。


 「寒くても平気です」


 そう告げて、圭介のほうに歩み寄ってきた。


 「先生のそばにいれば、暖かいから」


 また腕を絡めてきた。


 頬を寄せる。


 「先生って、いつも暖かい」


 自分が美月姫に熱を与えるよりも、与えられているような気がしてきた。


 熱と共に、鼓動も伝わってくるようだ。


 二人はしばし、無言で海を眺めていた。