五分ほど走った後、

大通りとは少し離れた河原の土手(どて)付近に二人は行き着いた。




「あ、ありがとうございました。あなたがいなかったらあたし、どうなってたことか……」


……考えただけでも恐ろしくなる。



「本当だ。女ならもっと気をつけろ。」

「は、はい…………って、ええええ!?なぜ私が女だとバレたんですか!?」


千秋は今、男装をしている。


「お前なぁ、面白いやつだな、自称してるのが”私”なのに男だと思うか?
それとも、この頃たまに見かける、体は男だけど心は女、みたいなやつなのか?」


「ち、違いますよ!!女です!!」

千秋は真っ赤になって反論する。



「あはははは!!」



声主は千秋の顔を見ると、端正なイケメンのその顔を笑いでいっぱいにさせた。

そして、頭をポンポンとさせる。


「ま、まあ、それは置いといて!あの、お礼をしたいのですが、お名前をお聞かせくださいますか?」



千秋は助けてくれた男を真っ直ぐ見る。




「名乗る程のもんじゃねえよ」

男は少し笑いを浮かべ、優しい眼差しで見下ろしてくる。




「でも、お礼をしないと気がすまないんです!!」


千秋は、男の腕をつかんで必死に訴えた。

男は、少し苦笑した。


そして、千秋に名前を名乗った。



だが、その出会いが、

千秋の心を

とても動かす存在とは

名前を聞くまで

気づかなかった









「俺は……土方歳三って言うんだ。」





千秋は、息を飲んだ。

驚きで、一歩あとずさてしまった。






「もしかして……新撰組…副長の…?」


土方は、”新撰組”の名を聞くと、驚きで目を見張った。


「お前…新撰組を知っているのか」



「はい、今、訳あって、屯所に居候をさせてもらっています」


「居候!?」


「はい…」


「じゃあ、なぜお前は一人で紫前町に出ているんだ。
過保護な近藤さんなら女のお前をひとりで町に出さないはずだ」



「あ……それは、私の独断で出てしまったんです。
屯所の皆さんに卵焼きを作ろうと卵を買いに一人で出て行ったら、まよちゃって」



「そういうことか。
じゃあ、お前は今から屯所に帰るんだな?」

「はい」


「じゃあ都合いい。一緒に帰るぞ。」


「た、助かります!!!ありがとうございます!!」


「じゃあ行くぞ。……えっと。お前の名はなんだ?」


「桜賀千秋です」


「じゃあ、千秋。行くぞ。ついてこい」



土方はフッと不敵に笑い、

千秋の頭を再度なでた。



「助かります!はい!!!!」






千秋は、勢いよく、元気に返事したのであった。