一方、その頃食堂にいる千秋はというと。
「斎藤さんったら、しゃもじ私に渡していっちゃったけど、これ、ご飯の盛り付けの途中だよね…
私がやっておこうっ」
三番組分全員分を用意していたのだろうか、ざっと40人分ほどの茶碗がおかれていた。
半分くらいは斎藤が盛り付けているみたいだが、その半分はまだ空のままだった。
「住まわせてもらってる身なんだし、これくらいはやらないと…って、あれ、おかずはないのかな?」
辺りを見回しても、白ご飯しか調理されていない。
「卵焼きでも作ろうかなぁ」
千秋には、巡察や鍛練で疲れている隊員たちに白ご飯オンリーの昼御飯はつらいような気がした。
さて卵焼きを作ろう!
………と思ったが、卵がない。
どうしようかと思っていると、
千秋はひらめいた。
「確か、この間巡察に連れていってもらったとき、卵屋を見かけたんだよね」
かんざし屋の奥に、卵屋があったことを千秋は思い出す。
「卵屋は、屯所の近くだけど……近藤さんに隊員の護衛なしで町に出るな、って言われてるんだよね…」
近藤は、紫前町でおそわれるのは、女性の一人歩きと近藤が言っていた。
だが、千秋は今、男装をしている。
(きっと近藤さんは過保護なだけだよね、まだまだ昼間だし、そんな物騒なこと起こらないよ)
「近くだし……一人でも大丈夫だよね?」
千秋は風呂敷にお金を包んで、肩にかけた。
「置き手紙だけおいていったら大丈夫でしょ!」
千秋は、食堂の隣の部屋の給水室に紙と筆を取りに行き、
“少しだけ、卵屋にいってきます”
――……と書き記し、そのメモを斎藤が戻ってくるであろう台所においておいた。

