『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「お前、なに、言ってるんだ……。お前、そんなこと言える立場じゃ……」

「まだ怒ってる? ごめんなさい、許して? 私が馬鹿だった。だから、ねえ。お願い。帰ってきて……」


女性の大きな瞳から、ころんと涙が転がり落ちる。
眞人さんに縋る姿は、まるでドラマのワンシーンのように綺麗だった。


どういうこと? この人は一体誰なの?


のろのろと梅之介を観る。出入口の前に立ち尽くしていた梅之介の顔も、酷く困惑していた。


「とりあえず、離れろ」


眞人さんが女性の体を押しやる。
それからぶるんと頭を振って、手近なテーブルに手をついた。大きなため息をつく。


「何だよこれ、どうして来れるんだよ……」


声音が弱弱しい。眞人さんが狼狽えているのだと分かった。こんな姿、初めて見た……。


「眞人……」


指で涙を拭った女性が、ふっと私を、それから梅之介を見る。


「あ……急にすみません。驚かせてしまいました」


丁寧に会釈をする。上品な仕草に、私たちも慌てて頭を下げた。
儚いとか、頼りないとかいう表現をすればいいのだろうか。
そっと笑みを作るさまは女の私ですら庇護欲を駆られた。


「この店の従業員の方たちかしら? 初めまして、眞人の妻です」


時が止まるとは、こういうことを言うのだろうか。
私は、心臓の鼓動すら止まったかと思った。


今この人、眞人さんの、妻って、言った……?


梅之介が「うそ!」と短く叫んで私を見る。その動きがやけにスローに感じられた。