『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「やっぱり美味しい」


でへへと咀嚼していると、眞人さんが私の口元に手を伸ばした。


「すまん、芥子が付いた」


口端に指腹が触れる。
ぐい、と拭われた。幅広の指に薄黄色が付いたのを見て取った瞬間、思いだしたのは先日の梅之介だった。

ぱく、と指先を口に含んだ。
それはもう反射としか言いようがなくて、どうして自分がこんなことをしたのか説明できない。


「何してるんだ」


驚いた眞人さんの声に、顔を上げる。驚いたのはこちらも一緒です、すみません。


「んー……、ええと、芥子が付いてたから綺麗にしようと?」


必死に考えながら言う。
眞人さんがどういう反応をするのか分からない。
やってしまったこととはいえ、心臓が爆発するんじゃないかというくらい高鳴った。


「ほんと、面白い。サチみたいだ」


くす、と眞人さんが笑って、私の口からそっと指を引き抜いた。


「サチも、こんなだった?」

「ああ。顔でも手でも、よく舐めてた。だけどさすがに、芥子は舐めなかったかもな」

「ふう、ん」

「さ、仕込みに戻るか。気に入ったんなら、これは夜の賄用にも少し残しておこうな」


ぽん、と私の頭を一度だけ撫でて、眞人さんは仕込みに戻った。
頭のてっぺんに残った感触に手を伸ばし、眞人さんの背中を見つめる。
思わず、微笑んでいた。

そっか、眞人さんはこれも許してくれるのか。
私はまだ、彼に近づいても許されるのか。
それが堪らなく嬉しい。

今のところ、眞人さんには私の気持ちを気付かれていない。
だから、このままでいい。
こうして眞人さんに受け入れてもらえて、優しくしてもらえているだけで、幸せだと思おう。
これ以上何かを求めるのは、贅沢過ぎだもの。

ふふ、と小さく笑った私は、少しだけ冷めたお茶をゆっくりと啜ったのだった。