『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

眞人さんが視線を投げる。切れ長の瞳が松子の姿を捉え、そして。


「迎えに来た」


携帯灰皿にタバコを押し付けて消した眞人さんは優しく言って、そして柔らかく微笑んだ。


「帰ろう、白路」


眞人さんの目は、松子の後ろにいる私を真っ直ぐに見つめていた。


「え⁉」


私の両脇にいた真帆とめぐみが短く声を上げて私を見る。
眞人さんは松子の横をするりと通り抜け、私に手を伸ばした。
動けない私の後頭部に手をまわし、ぐいと引く。広い胸元にぽすんと顔が埋まった。
くしゃくしゃと髪を撫で、「今日もお疲れさん」と眞人さんが言う。


「お、お疲れさま、です」


なんでどうしてという言葉ばかりが頭を巡る。一体何がどうしたらこんなことになるの。


「白路の同僚の方ですか? いつもお世話になっております」


頭の上で、眞人さんのにこやかな声がする。
それから少し遅れて、「あ、いえそんな! い、いつもお世話してもらっています!」とめぐみの声がした。


「眞人さん⁉」


叫ぶような声がして、それは松子の声だった。


「ど、どういうことですか⁉ どうして眞人さんがその人と⁉」

眞人さんの手が緩む。顔を上げた私は松子を見る。
松子は顔色を変えて私を睨みつけていた。その表情の険しさに、思わず身を固くした。


「あれ? 俺のこと知ってるんですか?」


眞人さんが不思議そうに言い、首を傾げる。


「どこかでお会いして……ああ、もしかしてお店にいらしてくれたことがありますか?」


ぱっと笑顔を作り、眞人さんが会釈する。


「すみません。どうも、お客様の顔を覚えるのが苦手で。ご来店ありがとうございます」

「な、何言ってるの? 私、あんなに通って……」


松子の手がわなわなと震えている。結川さんが「ほお」と大きな声を洩らした。


「それに、どうしてその女と⁉」

「どうして、って。それは、白路が俺のものだからですね」


背中に腕が回り、抱き寄せられる。こめかみに、温もりが触れた。


……え? な、に……。


眞人さんの唇だ、と気が付いたのは、それが、ちゅ、というリップ音と共に離れたからだ。
ジンジンとした熱と、煙草の香りが私に残って、事実だったことを主張する。
だけど、理解できない。今私、眞人さんにキスされた?


「とても大事な人なんです。なので、仲良くしてあげてください。お願いしますね」


頭の上から、ありえない言葉ばかりが降ってくる。
頭の中は既にまっしろ。思考は完全にフリーズしてしまった。

多分私は、パラレルワールドに放り込まれたのだ。
じゃなければ、こんなことが起こり得るはずがない。


「さ、帰ろうか。白路」


眞人さんが言って、真帆やめぐみに頭を下げる。


「あなたたちも、白路をお願いしますね」


顔を真っ赤にしためぐみと真帆がコクコクと頷く。


「じゃあ、失礼します。行こう、白路」

「は、はひ……」


眞人さんにほぼ抱きかかえられるようにして、その場を後にした。