「いつまでそこにつっ立ってんだよ、奥行け」
ぽこんと頭を叩かれて、のろのろと振り返る。
「……泣きそうな顔するなよ。そういうの苦手だって言っただろ」
私を見下ろした梅之介がため息をついた。
「ん……ごめん」
「仕方ないな。裏で休憩してきてもいいよ」
梅之介が奥のドアを指で指し示す。
「ううん、働く」
体を動かしているほうが、マシだ。のろのろと仕事に戻った。
私の心は、やはり酷く動揺していたのらしい。
次に気付いた時には、私は店裏の庭先にぼんやり座り込んでいた。
遠くに飛んで行っていた意識を呼び戻したのは、梅之介の声だ。
「いつまでへたり込んでんだ、シロ」
「え……? ああ、梅之介。あれ? お店は」
「とっくに終わっただろ。いつまでこれ被ってんだ」
近寄ってきた梅之介が、私の頭を覆う三角巾をはぎ取った。
「え? ああ、そっか。そう、だっけ?」
「そうなんだよ。それよりほら、これ!」
梅之介が、ずいと何かを差し出す。
「食べろよ」
それは、湯気を放っているおにぎりが二つ載ったお皿だった。
「お前、昼の賄も満足に食べなかっただろ。眞人がお前のためにわざわざ作ったんだから、残さず食べろ」
炙った海苔の香ばしい香りがする。
三角に結んだおにぎりの上にはそれぞれ、ちょこんと焼きたらこと潰し梅がのっていた。
「ほら」
「あ。ありが、とう」
私にお皿を押し付けると、梅之介は「じゃあ、僕は昼寝の時間だから」と言い置いて家の方へ戻った。
と、くるんと振り返って私を呼ぶ。
「おい、シロ」
「なに、梅之介?」
「お前の元彼、趣味悪いな。あの松子って女、全然大したことないよ」
雰囲気でそれなりに見せてるだけだ、と梅之介は鼻で笑った。
「はあ」
「お前の方が面白い分、マシだね」
梅之介がぷいと横を向いた。
……もしかして、これって梅之介なりに私を気遣ってくれているんだろうか。
「ええと、ありがとう」
本当は、その気遣いはものすごく嬉しかった。
だけど私はすぐ梅之介を怒らせてしまう言い方をしてしまうので、もごもごとお礼だけを言った。
それは、正解だったらしい。梅之介は「うん」と頷いて今度こそ戻って行った。
焼きたらこのおにぎりを手に取る。
まだあったかい三角の天辺に齧りついた。口の中に入れるとご飯がふわりと崩れる。塩加減がちょうどよくて、海苔とたらこの風味が口いっぱいに広がった。
「おいし」
梅之介も、眞人さんも、私を受け入れてくれる。
この場所にいていいんだよって言ってくれてる。
それだけで、嬉しい。それだけでいい。充分だ。
いくら松子がここに来ても、私の大切なところまでは、侵食されない。きっと。
おにぎりを齧りながら空を見上げる。
高く澄んだ青空には、雲ひとつない。高みへと廻旋しながら登っていく鳥の姿だけがあった。
ぽこんと頭を叩かれて、のろのろと振り返る。
「……泣きそうな顔するなよ。そういうの苦手だって言っただろ」
私を見下ろした梅之介がため息をついた。
「ん……ごめん」
「仕方ないな。裏で休憩してきてもいいよ」
梅之介が奥のドアを指で指し示す。
「ううん、働く」
体を動かしているほうが、マシだ。のろのろと仕事に戻った。
私の心は、やはり酷く動揺していたのらしい。
次に気付いた時には、私は店裏の庭先にぼんやり座り込んでいた。
遠くに飛んで行っていた意識を呼び戻したのは、梅之介の声だ。
「いつまでへたり込んでんだ、シロ」
「え……? ああ、梅之介。あれ? お店は」
「とっくに終わっただろ。いつまでこれ被ってんだ」
近寄ってきた梅之介が、私の頭を覆う三角巾をはぎ取った。
「え? ああ、そっか。そう、だっけ?」
「そうなんだよ。それよりほら、これ!」
梅之介が、ずいと何かを差し出す。
「食べろよ」
それは、湯気を放っているおにぎりが二つ載ったお皿だった。
「お前、昼の賄も満足に食べなかっただろ。眞人がお前のためにわざわざ作ったんだから、残さず食べろ」
炙った海苔の香ばしい香りがする。
三角に結んだおにぎりの上にはそれぞれ、ちょこんと焼きたらこと潰し梅がのっていた。
「ほら」
「あ。ありが、とう」
私にお皿を押し付けると、梅之介は「じゃあ、僕は昼寝の時間だから」と言い置いて家の方へ戻った。
と、くるんと振り返って私を呼ぶ。
「おい、シロ」
「なに、梅之介?」
「お前の元彼、趣味悪いな。あの松子って女、全然大したことないよ」
雰囲気でそれなりに見せてるだけだ、と梅之介は鼻で笑った。
「はあ」
「お前の方が面白い分、マシだね」
梅之介がぷいと横を向いた。
……もしかして、これって梅之介なりに私を気遣ってくれているんだろうか。
「ええと、ありがとう」
本当は、その気遣いはものすごく嬉しかった。
だけど私はすぐ梅之介を怒らせてしまう言い方をしてしまうので、もごもごとお礼だけを言った。
それは、正解だったらしい。梅之介は「うん」と頷いて今度こそ戻って行った。
焼きたらこのおにぎりを手に取る。
まだあったかい三角の天辺に齧りついた。口の中に入れるとご飯がふわりと崩れる。塩加減がちょうどよくて、海苔とたらこの風味が口いっぱいに広がった。
「おいし」
梅之介も、眞人さんも、私を受け入れてくれる。
この場所にいていいんだよって言ってくれてる。
それだけで、嬉しい。それだけでいい。充分だ。
いくら松子がここに来ても、私の大切なところまでは、侵食されない。きっと。
おにぎりを齧りながら空を見上げる。
高く澄んだ青空には、雲ひとつない。高みへと廻旋しながら登っていく鳥の姿だけがあった。



