『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「どうかしました? あ、不愉快すぎますよね、こんな話……」


聞いていて気持ちのいい話じゃない。
ふたりに甘えてぺらぺら喋っちゃった、と頭を下げる。


「あ、いや。そうじゃない。シロの話の『松子』って子のことが少し気になって。なあ、クロ」


眞人さんが梅之介に向かって続ける。


「最近通ってきてる女の子がいただろう。黒髪ロングの、ほら、なんか声が甲高い」

「え?」


最後に食べようと私が残しておいた海老天に箸をのばした梅之介が、手を止める。


「エステサロンで働いていて、メンズコースもあるんでぜひ、とか言ってただろ。覚えてないか?」

「えー?」


梅之介が天井辺りに視線を彷徨わせる。


「通ってきてるブスは沢山いるから、いちいち覚えてないんだけどなあ。えーと……あ!」


梅之介がはっとした顔をして、眞人さんを見る。


「ここ半月ほどだよね? やたらかわいこぶってて、眞人にしょっちゅう絡んでる!」

「それ! あの子さ、一緒に来てる友達からなんて呼ばれてたか覚えてないか」

「あ、分かる! えーと、えーと、ほら、あれだあれ」


急にお客の話を始めたふたりの顔を交互に見る。
と、彷徨っていた梅之介の瞳がかっと開いた。


「『まっつん』! そうだ、『まっつん』だよ!」

「それだ!」

「え、それってもしかして、ええ⁉ 眞人、それってさあ」

「ああ」


眞人さんが私を見て、言った。


「シロの話の中の『松子』と、最近ウチに足しげく通ってくる『まっつん』って女の子の外見の特徴が妙に被ってる」

「え……?」


動きを止めた私に、梅之介が言う。


「そういや、エステサロン勤務なことや、会社の先輩とトラブってることとかも聞いた。聞いてもないのにペラペラしゃべるんだ、『まっつん』は」


梅之介と視線が合う。
嫌な沈黙が三人の間に流れた。

考えたくもない事実を口にしたくなくて口を引き結んでいる私を見ながら、梅之介が厳かに言う。


「もしかしたら、『松子』が狙ってる新しい男って、眞人じゃないか……?」


そんなはずない、とは言えなかった。