『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「やめてよ馬鹿! 自分で拭くから貸して!」


ハンカチを奪い取り、自分で涙を拭う。ついでに鼻水もかんだ。


「あー、すっきりした」

「……最低な女だな、おまえ」


不機嫌そうにジョッキを傾ける梅之介に「ありがとう」と言って、私も自分のジョッキを持った。
ごくごくと飲む。


「ぷは。美味しい」


息をつくと、視界がすっきりと開けた気がした。


「実は、別れた彼氏と奪った後輩とのことでごたごたがありまして……」


それから私は、最近のことをゆっくりと語りだしたのだった。


「……何そのクソ女」


ジョッキをテーブルに叩きつけたのは梅之介だった。


「胸クソ悪い。お前、そんなクソ女にみすみす男を盗られたのかよ! 女としてのプライドはどうした!」

「だって、いい子だって思ってたんだもん」

「だもん、じゃない!」


ぐびー、とジョッキの中身を飲み干した梅之介が私に「ついでこい!」とジョッキを差し出す。


「あ、うん。眞人さんも、いります?」

「頼む」


眞人さんの目の前のものも空だったので、三人分のジョッキを満たして戻る。
お怒りの梅之介が、私の手からもぎ取るようにして奪った。


「だいたい、最初っから甘いんだ、シロは。盗られたって分かった時点で反撃しろ」

「反撃って、たとえば?」

「なんでもいいから痛い思いさせるんだよ。言葉が出なきゃとりあえずぶん殴っとけ。鼻っぱしらにグーパンチだ!」


子供の喧嘩か、というようなことを梅之介はぷりぷりと怒りながら言う。


「男もクソだよな。そのクソ女にさっさとフラれて、惨めな底辺クソ人生送れ。で、クソ女は次の男にこっぴどくフラれろ。ふたりともクソ人生歩め!」

「梅之介、食事中だからクソクソ言うのはどうだろうね?」

「うるっさい! 僕は苛々してるんだから、いいんだよ」

「はあ」

「お前もぼんやりせずに一緒に呪詛を吐け!」

「呪詛って、そんな」


自分よりも怒っている人をみると、不思議とこちらの気持ちは落ち着いてくるものらしい。
きっと、代わりに怒ってくれているからなのだろう。

顔を赤くしている梅之介に、感謝の念を送る。
口に出すと、「礼なんか言ってる場合か」と怒鳴られそうなので言わないでおいたのだ。

と、さっきからほとんど無言の眞人さんを見れば、彼は眉間に皺を刻んでビールを飲んでいた。