『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

泣きはらした顔をどうにかメイクでごまかして帰った。

真帆はすごく心配してくれて、泊まりにおいでよと何度も言ってくれたけれど断った。
洗い場は私に任された仕事だし、それをなんの連絡もなくサボるなんてできない。
近々気晴らしに飲みに行こうと言う話をして、別れた。

気分は滅入ったままで、気を抜けば涙が零れそうだったが、ふたりにいらない心配はかけたくない。笑顔を作ることを心掛けて、洗い物に勤しんだ。


「シロ、食事の準備ができたぞ」


閉店後、シンクを磨いている私に眞人さんの声がかかる。


「あ、はーい。すぐ行きます!」


ぺかぺかに片付いた洗い場を確認してから、私は店の方へと向かった。


「あれ?」


テーブルの上には、いつもより豪華な食事が用意されていた。
それに加え、ビールジョッキが三つ置かれている。


「飲むぞ、シロ」


先に椅子に座っていた梅之介がジョッキを掲げる。


「え? どうかしたの?」


飲まないことが多いので訊くと、眞人さんが「明日は店休日だからな」と言う。


「三人で飲もうって話になったんだ」

「そうですか、なるほど」


では、と梅之介の隣に座る。私の正面に眞人さんが座った。


「わあ、今晩も美味しそうですねえ」


今日のメインは天ぷらだ。海老に鱚、舞茸に銀杏、走りのふきのとう。
脇には大好物の茶碗蒸しと、蟹入りの五色膾もある。


「食べていいですか?」


眞人さんに訊くと、「勿論」と笑顔で言われる。


「とりあえず、今日もお疲れ様ー」


三人で、ジョッキをかちんと合わせた。


「はわー、美味しい」


天ぷらには三種類のお塩と天つゆが添えられていて、その中でも抹茶塩(大好きなのだ)をつけたものが堪らなく美味しい。ビールもするすると喉を通る。


「よかった。ほら、これも食え」

「え⁉ いいんですか?」


眞人さんのお皿から私のお皿に鱚が移った。


「ああ。膾はおかわりもできるぞ」

「わあ、嬉しい」


遠慮なく、鱚を頬張った。


ここに帰って来るまでは、食欲なんて全くなかった。
どうにかやり過ごして、布団の中で丸まって泣くことしか考えてなかった。

なのに、美味しいと思える自分がいる。
笑えている自分がいる。

どうしてだろう。
どうして、私はちゃんと笑っていられるんだろう。