『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「な、白路? どう、かな」


周囲を見渡しながら私に言う達也の笑顔はやっぱり知らない人のものに見えた。
と同時に、嫌悪に似た感情を覚える。

ああ、と一度だけ目を閉じた。

今まで私の心の隅にへばりついていた『情』みたいなものが、パキパキとひび割れて剥がれ落ちていく音を聞いた。
それと共に、私を苦しめていたものが消えて行く。
目を開けた私は、達也に笑いかけた。


「……ありがとう」

「白路! 俺のことわかって」

「お蔭で、私の中に燻ってた未練がきれいさっぱりなくなった」


達也の口が、ポカンと開いた。


「すごくすっきりした。あんな別れ方を選んだことは、今でもすごく酷いと思う。他にやり方があったでしょと思うけど、もう私にとっては終わったことだから、どうでもいいよ」

「白路!」


私を追いかけて来てくれたのか、真帆が息を切らせてやって来た。
達也と向かい合う私を見て顔を強張らせるが、そんな真帆に笑ってみせた。


「大丈夫。心配しないで」


それから、達也に視線を戻す。


「松子に、近々捨てられると思う。だから、自分の力でしっかり生きていってね。今までありがとう。さよなら」


言い捨てて、背中を向けた。足を踏み出す。


「白路!」


縋る様な達也の声に振り返る。達也は顔を歪めていた。それを見れば、胸が痛む。

未練がなくなったとは言ったけれど、かつてとても大切に想い、できればずっと一緒に居たいと思った人だ。
不幸になんかなって欲しくない。できれば、私の大好きだった笑顔をいつまでも持っていてほしいと思う。


「私のアクセサリーボックスとか家具とか、売りなよ。少しはお金になると思う。新しい門出の資金にして」

「な……」

「だからもう、私に関わらないで。今度こそさよなら」


今度は、名前を呼ばれても振り返らなかった。私は足早にその場を立ち去った。