『好き』と鳴くから首輪をちょうだい



「――辛気臭いことしてんじゃねーよ、ファンキーブス」

「あいた」 


ぽこんと後頭部を叩かれて、皿洗いをしていた手を止めた。


「何よ、梅之介。お皿洗ってただけじゃん」

「はーはーとため息ばっかりつきやがって。重っ苦しいんだよ」

「え? 私、ため息なんてついてた?」


全然気づかなかった。
コンロの前にいる眞人さんを見やると、苦笑しながら頷かれた。


「す、すみません。無自覚でした」

「別にいいけど、どうかした?」

「あ、いえ。別に」


頭の中にあったのは松子のことだった。
どうしたらいいのか、なんてことをぐるぐると考えていたので、それがため息となって零れ出ていたのだろう。 
曖昧に笑う私を見て、「ふうん」と言った眞人さんが、ふいに近寄ってくる。


「口開けて」

「はい」


言われるがままに口を開けると、押し込まれたのは甘辛く味付けされた鶏つくね。
軟骨が入っていて、ふわふわの中にコリコリとした触感がある。


「おいひい」


温かなそれをはふはふと食べると、笑みが零れる。
ああ、今は美味しい物を食べてるからそれでいいや、なんて考えてしまう。
そんな私を見て、眞人さんが「今日の賄にも、それ出してやるよ」と言う。


「わーい。やった」

「あ」


眞人さんがすいと手を伸ばしてきて、私の下唇の端に触れた。指腹がぐい、と動く。


「タレがついてる」


眞人さんの指先に、艶のあるタレがつく。彼はそれを、ぺろりと舐めた。


「じゃあ、もう少し皿洗い頑張れ」

「は、はい……」


赤面してしまったのは、仕方のない事じゃないだろうか。
そんなこと、さらりとしないでほしい。
しかしそんな私には気が付かず、彼は調理に戻っていた。
もぐもぐと口を動かしながらその背中を追っていると、「食いしんぼ」と声がかかった。


「腹が減ってたから、ため息ついてたのかよ。ガキか」


ふん、とあざ笑うかのように私を見る梅之介に、顔を顰めてやった。


「違いますー! 梅之介と一緒にしないでくれる?」

「僕は腹が減ったって、どうってことないね」

「あ、そうだよねー。梅之介は食欲じゃなくて睡眠欲の方が大事だもんね」

「うるさい」


むっと眉を寄せた梅之介だったが、昼寝が欠かせない体なのは事実なのだ。ふ、お子様め。


「お前の分のつくね、僕が全部食ってやる」

「うわ、ありえない。そんなこと言うなんて、どっちがガキなんだか」

「な⁉ バ、バカにすんな」


眞人さんのご飯を食べて、梅之介とくだらない口げんかをして。
そうしていたら、お布団に入る時には「明日も頑張ろう」という気分になっていた。不思議だ。
ふたりの存在に感謝しつつ、眠りにつく私だった。