『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

のろのろと達也に顔を向ける。バツの悪そうな顔をした達也はぱっと視線を逸らした。


「ほら、帰ろう。な?」

「あーやだやだ。私の顔色窺って、情けないったら。もっと素敵な人だと思ってたのに」


はあ、とため息をついた松子は「そうだ」と明るい声を出した。


「白路センパイ、達也さんを返品してあげましょうか?」

「は?」


この場には、これは修羅場かと足を止めていた人が数人いた。その中の、うちの店のスタッフ全員が同じ声を洩らした。
達也が「いい加減にしろ!」と声を張る。


「何言ってるんだよ、松子! 俺、お前の言う通りに別れてやったんだぞ⁉」

「あーもう、冗談だって! わざわざ迎えに来てくれたみたいだし、帰ってあげますぅー」


怒っちゃってー、とクスクス笑う松子が達也の腕に手をかける。


「じゃ、お疲れ様でしたー」


ひらりと手を振って、達也と去って行く松子。誰も、その背中に声をかけることをしなかった。


「サイッテー……」


誰かの呟きが、その場に静かに落ちた。


それから、達也が松子を迎えに来る日が増えた。
そのことで頭を抱える羽目になったのが武里チーフで、スタッフたちの苦情を一身に受けているのだった。


「どの店も受け入れ拒否……。もうどうしろって言うんだよ、自分の能力の無さに泣けてくるわ」


私とふたりきりの休憩室で情けないと肩を落とす武里チーフに「すみません」と頭を下げると、「三倉が我慢してくれてるって言うのにごめんな」と言われた。


「いえ、そんな。私はまだ、大丈夫ですから……」


そんな事を言ってしまうが、それは嘘だ。

達也を見かけたことはあれから二度もあった。
松子の機嫌を窺いながら笑う達也を見るのは辛かった。
屈託なく笑う、達也の曇りのない笑顔が私は大好きだったから。

そんな笑顔を浮かべていれば、幸せそうにしてくれていれば、まだ我慢できたのではないだろうか。
すぐには無理でも、いつかは幸せを祈ることくらいできたのではないだろうか。

でも、そうじゃない。
好きだった人が卑屈な笑顔を浮かべるさまなんて、胸が握りつぶされるように苦しいだけだ。


こんなことが、早く終わってくれたらいいのに……。