『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「言わない。シロには関係ないもんね」

「む。なんで」

「これは『飼い犬の呟き』なんだよ。だから、シロには教えてやんない」

「なにそれ」

「言葉のまんまだよ。シロが入っていい場所じゃない」


それは、自分でも分かっていたことなので、私は口を噤むしかない。
押し黙った私をみて、梅之介がふっと息をつく。


「まだ」

「え?」

「まだ、数日の関係だろ。お前はまだこれからってこと。ねえ眞人、たこ焼きも買って!」


眞人さんに声をかけた梅之介は、眞人さんの横に並んで歩き始めた。
さっきのことなんてまるでなかったようにして、笑顔で話を始める。


「まあ、梅之介の言う通りだ」


ふたりの背中を後ろから眺めながら呟く。
暮らし始めて数日だ。
そんな私がどかどかと入り込むには、デリケートな問題すぎるということだ。

だって、私よりはるかに付き合いの長い(と言っても一年だけれど)梅之介でさえ、眞人さんに何も訊かないのだ。


「一年……かあ。それにしては、すごく仲がいいんだよねえ」


後ろから見ていると、ふたりはとても長い付き合いの友人のようにみえる。
間に漂う空気が落ち着いてしまっているのだ。

仲というのは、付き合ってきた時間の長さではなく、深さとか密度なんだろうとしみじみ思う。
まあ、それもそうか。だってふたりは互いに納得済みの『飼い主』に『飼い犬』なわけだもんね。
しかも、ずっと生活も仕事も共にしているわけだし。

なんか、その独特な繋がりがちょっと羨ましい。
友情とはちょっと違って、でも信頼しあえている関係っていうのかな。
屈託ない笑顔を見せる梅之介の横顔を眺めながら、いいなあと思う。

私も、眞人さんや梅之介といつかそんな特別な関係に慣れるだろうか。
いろんなことを話せるような、そんな関係に。なれたら、いいなあ。

と、ふっと気になった私は後ろを振り返った。人ごみの中に置いてきた、浦部さんを思いだす。


『小紅さんも必死に眞人さんのこと探して……』


名前だけで、眞人さんの顔つきを変えた人。
一体、小紅さんって誰なんだろう。どんな人なんだろう。

ふっと足を止めて考える私の頭に、ぽんと手のひらが乗った。
振り返ると眞人さんがいて、「迷子になるぞ」と言う。


「ほら、行こう。シロ」

「あ、はい」


眞人さんの後を追いながら、私はもう一度だけ振り返った。
人ごみの中に、疑問の答えがないことは分かっていたけれど。