あれは二日前のこと。
閉店の片づけをしていると、誰かがそっと店に入って来る気配があった。
『あの……眞人さんに、お話があって……』
緊張しているのか、少しだけ声が震えている。
それは、若い女性のもののようだった。
洗い場にいた私がこっそりと店を覗くと、清楚な雰囲気の艶やかロングの美人が立っていた。
『あー、そろそろ来るなって思った』
私の隣でぼそりと呟いたのは梅之介で、その言葉の意味を問おうと顔を窺うと、『アイノコクハクってやつだよ。あの人、最近毎日のように通ってて、眞人に話しかけてたから』と言われた。
『ふうん。まあ、眞人さんは文句なしにかっこいいものねえ』
『店に来ても、ずっと眞人のことを目で追ってたからな』
そんな風にこそこそと話していると、女性が思い切ったように、『お気づきかもしれませんが、私、眞人さんのこと、好きなんです』と言った。
『わ』
小さく声を洩らしてしまい、慌てて自分の口を押える。
人の告白を見たのは、初めてだった。
おっとおっと、こういうのって失礼だよね、と洗い場に踵を返そうとしたその時だった。
冷ややかな声が店内に響いた。
『迷惑です』
驚いて足を止めた。
振り返り、店内に視線を戻す。
『貴方はただのお客です。来て下さるのはありがたいですが、そういった感情をむけられるのは、迷惑でしかない。どうぞ、お帰り下さい』
眞人さんの台詞とは思えないくらい冷たくて、私は自分の耳を疑う。
拒絶という意思がしっかりと乗った言葉は、離れたところで聞いている私の胸にもぐっさりと刺さるくらい鋭い。
しかし、それは事実眞人さんの口から発せられたもので、顔を真っ赤にした女性は、何も言わずに店を駆け出して行った。
『相変わらず、けんもほろろだよなあ』
くっと梅之介が笑って、『な。僕の言った通りだっただろう』と言った。
『お前も、眞人を好きになったらああいう風に拒否されるぞ』
『びっくり、した……』
断るにせよ、もっと優しい言い方がある。
いつもゆったりとして、穏やかに構えている眞人さんなら、波風の立たないような綺麗な断り方が出来るはずだ。
なのに、さっきの彼からは余裕なんか感じられなくて、全身で拒絶を示していた。
人からの好意なんて、僅かでも向けられたくないという風に。
一体、それはどうして……?
私たちが見ていることに気が付いた眞人さんが表情をふっと和らげる。
それはいつもの優しい彼のもの。
『さあ、片づけて飯にしようか』
『は、はい』
切り替えについて行けなくて曖昧に笑う私の耳元で、梅之介が囁く。
『せいぜい、気をつけろよな』
クスクスと笑う梅之介に、何も言い返せない。
ただ漠然と、眞人さんからあんな冷たい言葉を浴びせられる日が来るのだけは、絶対に迎えたくないと思った。
閉店の片づけをしていると、誰かがそっと店に入って来る気配があった。
『あの……眞人さんに、お話があって……』
緊張しているのか、少しだけ声が震えている。
それは、若い女性のもののようだった。
洗い場にいた私がこっそりと店を覗くと、清楚な雰囲気の艶やかロングの美人が立っていた。
『あー、そろそろ来るなって思った』
私の隣でぼそりと呟いたのは梅之介で、その言葉の意味を問おうと顔を窺うと、『アイノコクハクってやつだよ。あの人、最近毎日のように通ってて、眞人に話しかけてたから』と言われた。
『ふうん。まあ、眞人さんは文句なしにかっこいいものねえ』
『店に来ても、ずっと眞人のことを目で追ってたからな』
そんな風にこそこそと話していると、女性が思い切ったように、『お気づきかもしれませんが、私、眞人さんのこと、好きなんです』と言った。
『わ』
小さく声を洩らしてしまい、慌てて自分の口を押える。
人の告白を見たのは、初めてだった。
おっとおっと、こういうのって失礼だよね、と洗い場に踵を返そうとしたその時だった。
冷ややかな声が店内に響いた。
『迷惑です』
驚いて足を止めた。
振り返り、店内に視線を戻す。
『貴方はただのお客です。来て下さるのはありがたいですが、そういった感情をむけられるのは、迷惑でしかない。どうぞ、お帰り下さい』
眞人さんの台詞とは思えないくらい冷たくて、私は自分の耳を疑う。
拒絶という意思がしっかりと乗った言葉は、離れたところで聞いている私の胸にもぐっさりと刺さるくらい鋭い。
しかし、それは事実眞人さんの口から発せられたもので、顔を真っ赤にした女性は、何も言わずに店を駆け出して行った。
『相変わらず、けんもほろろだよなあ』
くっと梅之介が笑って、『な。僕の言った通りだっただろう』と言った。
『お前も、眞人を好きになったらああいう風に拒否されるぞ』
『びっくり、した……』
断るにせよ、もっと優しい言い方がある。
いつもゆったりとして、穏やかに構えている眞人さんなら、波風の立たないような綺麗な断り方が出来るはずだ。
なのに、さっきの彼からは余裕なんか感じられなくて、全身で拒絶を示していた。
人からの好意なんて、僅かでも向けられたくないという風に。
一体、それはどうして……?
私たちが見ていることに気が付いた眞人さんが表情をふっと和らげる。
それはいつもの優しい彼のもの。
『さあ、片づけて飯にしようか』
『は、はい』
切り替えについて行けなくて曖昧に笑う私の耳元で、梅之介が囁く。
『せいぜい、気をつけろよな』
クスクスと笑う梅之介に、何も言い返せない。
ただ漠然と、眞人さんからあんな冷たい言葉を浴びせられる日が来るのだけは、絶対に迎えたくないと思った。



