『好き』と鳴くから首輪をちょうだい



キンと張りつめた冬の空気。
穏やかな日差しを仰げば、雲一つない青空が広がっていた。


「いいお天気ですねえ」

「ちゃんと前見て歩け、アホ女。迷子になるぞ」

「む。大丈夫だもん。って、うわ!」

「だっさ。そのままこけちゃえ」

「ほら、シロ。手を貸せ」


人に押されてよろけた私を見て鼻で笑ったのは梅之介。
手を差し出してくれたのは眞人さんだ。


「あ。ありがとうございます」


大きくてあったかな手のひらを掴んで、私はへらりと笑った。

さて、お正月は元旦の朝である。
私は眞人さんと梅之介と三人で、『四宮』の近くの神社へ初もうでに向かっていた。

有名な神社であるのか参拝客が多く、道路には沢山の露店が出ていた。
どこのお店だろうか、美味しそうなイカ焼きの香りがする。後で買おう。あと、とうもろこしも。


「すごい行列だなあ。本殿に辿り着くには、まだまだ時間が掛かりそう」


私の前を歩く梅之介が前方を見やってため息をつく。

そんな彼は、今日はきっちりとした和装である。
仕立ての良い、程よくレトロでモダンな感じの着物は、眞人さんの今は亡きおじい様の遺品の一つだそうだ。

長着の上からグレーのとんびコートを着て、紫のマフラーを巻いた立ち姿はほれぼれするくらいかっこいい。
スタイルの良さと端正な顔立ちが際立っている。
ここに来るまでの道行でも、梅之介に見惚れた女の子を何人も見た。

それに加え、梅之介は着物に慣れ親しんでいるのか、仕草の一つひとつが妙に綺麗なのだ。
動きの雑さというのか、荒さが無くて、品がいい。

朝はよれよれのスウェットに寝癖だらけの髪で起きてくる人と同一人物だと思えないくらい、完璧に着物を着こなしている。


お坊ちゃま、なのかなあ。


梅之介の、サラサラの茶髪の後頭部を見上げながらぼんやり考える。

彼も、私と同様に帰る家がない。
昨日の大みそかに、帰省しないのかと言うようなことをうっかり訊いてしまった私に、『帰る家があったら、ここに住んでないんだよ』と彼は酷く怖い顔で凄んだのだった。


『野良犬みたいなもんなんだよ、僕は。これ以上は詮索するな』


と超低音で言われ、コクコクと頷いた私だ。
眞人さんに、梅之介にも事情があると聞かされていたと言うのに、すっかり忘れていたのだ。
自分の考えのなさを反省した。

その野良犬くんはきっと、しっかりした家庭で育ったいいところのお坊ちゃまなんだと思う。
言動の端々から、大事に育てられたことが窺い知れるのだ。

着物の扱い一つにしても、そうだ。
箪笥の奥深くに眠っていたという着物を見つけだし、きちんと手入れしているのは梅之介なのだそうだ。
今日だってさっさとひとりで着物を着てしまったし、面倒くさがる眞人さんにも着付けをしていた。

男性だけでなく女性の着付けも出来るらしく、私にも、おばあ様の遺品の中の着物を着せてやろうかと言った。

まあ、こんなファンキーな頭に似合う着物はありますかと訊いた私が馬鹿で、梅之介に「そんなこと言うなら着なくっていい!」と怒鳴られたわけだが(私はミリタリーコートにマフラーをぐるぐると巻いたラフな格好だ)。

多分、私が素直にお願いしますと言えば、ちゃんと着せてくれたに違いない。

どんな事情があって、家がないなんてことになってるのかなあ。
立ち入ったことを訊くのってデリカシーなさすぎだからしないけど、やっぱり少し気になってしまう。