『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

「本当にすまないと思ってる。だけど、もう少しだけ我慢してくれないかな。どうしてもというのなら、三倉が移動を」

「それはダメです! 白路に、彼氏だけじゃなく職場も明け渡せって言うんですか⁉」


就職して以来、私は駅中店にずっと勤めている。
できれば、真帆もいて居心地のいいこの店舗に居たい。


「だよ、なあ。うん、わかってる」


はあ、と再び武里チーフがため息をつく。


「とりあえずシフトを見直して、ふたりがなるべくかち合わないように組むから、それで当面は許して欲しい。こんな状態が長く続かないようにするから。年明けには、どうにかする」

「え、と。お願い、します」


武里チーフの様子を見ていたら申し訳なさの余り「このままでいいです」と言ってしまいそうになる。
だけど、松子と一緒に働き続けると言うのは辛い。深く頭を下げた。


「まさか、あの子がこんな問題児だとはねえ。頭が痛い」


武里チーフは「本当にごめんな」と言って部屋を出て行った。


「やだ、あの子って前科ありじゃない。探せば、他にも盗られた子いるんじゃないの」


怒りで顔を赤くした真帆が力任せにテーブルを叩く。


「まあ、白路に対するやり方を考えたら、それくらいのことをやってそうではあるけど! ああ、ご飯が途端に美味しくなくなっちゃった」


食べかけのお弁当に蓋をして、真帆が私の顔を覗き込んだ。


「私もいるし、他のスタッフだって白路の味方だから。がんばろ」

「……ん。ありがと」


真帆の優しさに胸がいっぱいになる。
私の代わりになって怒ってくれる人がいるというのは、とても有難いと思う。


「よし、ご飯食べよ。真帆もほら、残しちゃだめだよ」

「んー、そうね。食べる! だからさっきのお芋、もう一個ちょうだい」

「仕方ないなあ。あと一個だけね?」


真帆の笑顔を見ながら。私は大丈夫だ、と思う。
真帆がいて、眞人さんみたいな優しい人とも巡り合えた。
今はまだ辛いけれど、この胸の痛みもきっといつかは風化していってくれるだろう。それまで、がんばろう。

眞人さんの作ってくれた出し巻き卵を頬張りながら、そう誓ったのだった。