『好き』と鳴くから首輪をちょうだい

そんな私を疑わしげに真帆は見つめていたが、「今度、その店に連れて行って」と言った。


「え、どうして」

「そりゃ、心配だからよ。変な男だったら、即刻出て行かせるの」


言いながら、真帆は私のお弁当から小芋の揚げ煮を摘み上げる。


「あと、美味しいから客として行ってみたい」


最後はおどけたように笑う真帆だったけど、本当に私を心配してくれているのだろうと分かった。


「うん。今度連れてく」

「約束ね。しかし、本当に美味しいわ。もう一個ちょうだい」

「やだ! 私のおかずがなくなっちゃう!」


休憩室で笑い合っていると、急にドアが開いた。
入って来たのは武里チーフで、私を見て取ると「ごめん、三倉」と頭を下げた。


「国枝の移動の件、少し時間をくれないかな。移動先の店舗が簡単に決まりそうにないんだ」

「アヴェイル鷺ノ宮店に空きがありますよね? そこじゃだめなんですか?」


真帆が一番近くの店舗名を口にした。
そこは先日スタッフがふたりも辞めたばかりで人材が不足している。私も、松子はそこに移動になるものと思っていた。


「それが、そうもいかなくなってね」


武里チーフが眉根を寄せてため息をついた。
休憩室に私と真帆しかいないのを確認して「君たちにだけ言うけど」と続ける。


「国枝は、アヴェイルのスタッフの彼氏も盗っていたんだと。国枝が移動してくると聞いたスタッフのひとりがそれなら店を辞めると言い出して、それで発覚した」

「うそ!」


真帆が短く声を上げた。


「店舗が違うから続けられていたのに、と泣かれちゃこちらとしても国枝を移動させるわけにもいかない。かと言って、他の店となると調整がなあ」


四十を越したベテランの武里チーフの顔に、苦渋の色がある。

そういえば、アヴェイル店には松子と仲の良い子がいた。
あの子だろうか、とぼんやり考える。いつからだったか、松子の口から名前を聞かなくなっていたっけ。